「宮古島SOS」
社会委員会ニュース 「宮古島SOS」
高知伊勢崎教会 平林 稔
今年7月に先島諸島(この言い方にも問題を感じるが)の宮古島に行って来ました。最初に整理する意味で記しておきますが、先島諸島とは、八重山列島と宮古列島の総称で、良く知られている石垣島や竹富島、西表島は八重山列島に属しています。一方宮古列島には8つの有人島があり、その中の最大の島が宮古島です(人口約5万人)。私が宮古島に初めて行ったのは2015年で、先に何度か訪れていた妻から素晴らしさを聞いてはいましたが、空港に降り立った瞬間からこの島の魅力にとりつかれてしまい、それ以来私は“宮古島宣伝特任大使”を自認しています(笑い)。今回の宮古訪問は 2016年に続き、3度目です。
那覇空港から南西約300キロの距離(飛行機で約50分)に位置している宮古島は、観光化と米軍基地の存在のゆえに本島(沖縄島)が失いつつある自然の魅力がまだ多数残っている島ではありますが、貧困県として知られる沖縄の中にあっても、最貧困地域だと言われています。マンゴー、サトウキビ等のトロピカルフルーツの栽培がなされ、農業生産額は県内の市町村で第一位だそうですが、サトウキビを原料とするバイオマスエタノール製造プラントが建設され化学工業の取り組みが始まっていますが、島の産業としてはあとは観光に頼るしかないのが現状で、それがこの島が直面している問題の要因となっています。
とは言え、宮古のビーチの美しさは半端なく、息を飲むほどです。全国の絶景海岸(ビーチ)の様々なランキングの上位を占めるのはたいてい沖縄のビーチで、その中で宮古のビーチ(前浜や砂山ビーチ等)がまずどのランキングでも上位にランクされています。近年リゾート化が進んでいますが、沖縄島や石垣島ほどには整備されておらず、美しい景観はまだ保たれています。多くの観光客が訪れる、また島の生活を守るためにも、整備が進むことが即悪いこととはいえませんが、あの美しい自然が損なわれないように願うばかりです。あと、宮古の海に関して特筆すべきは、ビーチが砂浜ではないことです。ビーチって砂浜のことなのに?と思われるでしょうが、宮古のビーチは砂ではなくサンゴ礁のかけらなのです。だから歩き易いだけでなく、海の碧さとビーチの白さが際立った絶景スポットを生み出すのです。昨今の「沖縄ブーム」の中、宮古島も紹介されることが多くなり、また空港が整備され外国からの就航便が増えたことで、外国人観光客が多数訪れるようになりました。日本人を合わせた観光客数は、この1,2年で2倍から3倍に増えているそうです。私の宮古の知り合いは「現在はバブル状態だが、これはすぐに終わる」と言っていました。
さてそんな宮古島に降ってわいたように起こったのが軍事基地化の動きです。それは宮古島だけのことではなく、南西諸島全般への自衛隊基地強化の一環です。与那国島で2015年2月に陸上自衛隊(以下・陸自)駐屯地に関しての住民投票が実施され、配備賛成が多数となり、陸自の駐屯地沿岸警備隊が配備されたことはニュースになりましたが、奄美大島に奄美駐屯地、そして宮古島にも宮古島駐屯地の建設が急ピッチで進んでいることはあまり報道されていません。また那覇空港に併設されている航空自衛隊那覇基地にも、第9航空団が2016年1月に新設され、F15戦闘機が倍増されていることもほとんど知られていないのではないでしょうか。そんな中で、宮古島と沖縄島との間の約300kmある宮古海峡は、東シナ海と太平洋を隔てる要衝であることから、宮古島が海洋戦略上も南西諸島全般の自衛隊基地強化の最重要ポイントと位置付けられていることで、自衛隊配備と基地強化のターゲットとなったのです。
南洋の楽園とも言えるこの島が、国策で揺れています。1973年に米軍から引き継いだレーダーサイトが島には設置されていましたが、陸自のミサイル基地建設が進められ出したのです。この動きは2013年に閣議決定された中期防衛力整備計画から本格的に始まりました。防衛省は、2019年2月末までの完成を目指して、2017年11月に宮古島への陸自警備部隊・ミサイル部隊の配備のための建設工事着手の方針を固めました。そして同年11月20日から、宮古島市上野野原(ウエノノバル)地区の閉鎖されていたゴルフ場千代田カントリークラブ跡地で陸自駐屯地建設が着手されたのです。
これに対して、その前年の2016年に同カントリークラブ周辺の住民で構成される上野野原部落会は駐屯地建設反対を決議しました。同市の下地敏彦市長は、これまで自衛隊配備について「必要だ」としながらも「配備を受け入れたわけではない」とかわしていましたが、2016年4月に「基地を造ることを容認する」と発言したことで紛糾。その後の住民説明会には、沖縄防衛局からは職員が派遣されても、下地市長は出席しないことがあり、住民に対しては十分な説明がなされないままで計画が進められています。私が訪れた今年7月には陸自駐屯地建設はほぼ終わっているように見えましたが、施設の中身に関しては明確な説明がなされていないので、完成したのかどうかはわかりません。下地市長が陸自受け入れを表明する1年以上前から、防衛省と水面下で交渉を進めていたことはわかっており、また市長と千代田カントリークラブのオーナーとの関係にも疑いが持たれています。
さらに、同市城辺保良(グスクベボラ)の採石場「保良鉱山」に、こちらも住民に対しての説明がなされないまま、弾薬庫建設の工事が今年10月から強行されています。宮古島には川はほとんどなく、生活用水の全てを地下水に頼っているのが現状です。事前協議を行う地下水審議会から審議を付託された琉球大の新城竜一教授ら地質学の専門家で構成される学術部会は、①油分・薬物などの漏出が全くないとは判断しがたく、水質を恒久的に汚染する恐れがある②水質・水量に対する多段階のリスク管理が必要で、予防原則的に不適切③有事の際に攻撃された場合、地下水の水質汚染、地下水帯水層の破壊などが発生することを理由に、「施設の建設・運用は認められない」との結論を出しましたが、沖縄防衛局は2020年末の完成を目指して、現在も工事を進めています。